クリスマスSS 4




 クリスマスなんてひとつもイイことない。





『帰り、7時くらいになります』

 パパからメールの入った携帯をほうり、わたしはベッドにソファに寝転がった。
 今日は12月24日。外には雪がちらついて、絶好のホワイトクリスマス。
 でも小学生のわたしには、なーんにも関係ない。

 あーあ、つまんない。
 こんなことだろーと思ったわ。今日は6時に帰るとか大きなこと言って、結局遅刻、遅刻。最後はわたしが寝たあとに帰ってくるのよ。いつもそうだもの。
 そりゃ約束したから、ディナーはちゃんと作ったわ。ピザにシチューにポテトサラダ。全部パパが好きなメニュー。
 ……あったかいうちに食べてもらえないのなんて、わかってたケド。

「はぁ……っ」
 ごろんと寝返りをうつ。

 パパ。まだ仕事してるのかしら?
 そりゃわたしだって分かってるわ。パパは小さな輸出会社の社長さん。さっこんのフキョーで余裕がないのよね。いそがしくって、娘になんて構ってられない。分かってるわよ。
「…………」
 ……でもクリスマスなのに放っておくなんてひどいじゃない。


 だから今日は、ちょっとパパを困らせる罠をはったの。
 プレゼントには、すっごく大変なものを選んだわ。DXリラックマ。じゅちゅうげんていせいさんで、ほとんど売ってないものよ。
 それを、3日前にお願いしたの。
 つまり、パパが買ってくるのは絶対にムリってわけ。

 ふふっ。いい気味だわ。
 DXはムリだけど、マジメなパパのこと、小さなリラックマは買ってくるでしょう。
 そしたらわたしはいっぱい怒るの。これじゃないって。
 パパ、きっとすごく困るわ。泣いちゃうのもいいかもしれない。目薬用意しておかないと。それで、いっぱい困ったパパに……。
 ……代わりに、年末は一緒にいてってお願いするの。

「…………」
 どうせそれもムリでしょうけど。



            ☆             ☆


「あ、と」
 忘れてたわ。
 パソコンを立ち上げて、隠しメニューにしてるメールのアドレスをひらいた。

 最近、ネットで仲良くなった男がいるのよね。いい人っぽかったから大人のふりして、今日会う約束をしてるの。
 もちろん会うわけにはいかない。わたし子供だけど、ネットの向こうの人と会うの怖いことだってことくらい、分かってるわ。
 メールした。

『ごめんなさい。今日、いけません』

 返事はこなかった。
 よく考えたら、向こうも会いになんてくる気なかったかもね。いまどき待ち合わせに赤い薔薇なんて持ってくる人、いるわけないし。


「…………」
 時計をみたら、6時過ぎ。

「…………」
 実はさっきのはひっかけで、サプライズでちゃんと時間通りパパが帰ってくる。
 なんてパターン、ちょっと期待したけど、ないみたい。当たり前か。

「あーあ」
 もっかいソファに大きく寝そべった。
 パパの大好きな、ウインナーたっくさんいれたシチュー。冷めちゃうな……。



            ☆             ☆


 7時過ぎ。またパパからメール。

『もっと遅れるので、夕飯はおねえちゃんと食べていてください』

 サイテー。

 お姉ちゃん、帰ってきてないわよ。サトシとかいうイケメン彼氏(?)とデートだってさ。
 ……お腹すいた。
 もう食べちゃおっかな? テーブルの上を見る。ピザはもうかちかちになっていた。
「…………」
 マズそう。
 マズいのは……罰としてパパに食べさせるべきね。もうちょっと待とう。


「…………」
 …………。
「…………」

 ほんと遅いよ。
 もう……。帰ってきてよ。
 我慢できなくて携帯をとった。

『もうプレゼントいりません』

 お願いパパ。
 早く帰ってきてよ……。






            ☆             ☆

「ただいまーっ」
「!?」
 いつのまにかうとうとしてたみたい。気がつくと8時半を回っていた。

 玄関から声――。帰ってきた!?
 思って見に行くと。

「……お姉ちゃん」
「はー寒かった。ただいまちぃちゃん。メリーくりすまーす」
 なぁんだ。
 帰ってきたのはパパじゃなくて、アユミお姉ちゃんだった。
 ……? 行き、コート着ていかなかったっけ。それになんで男モノのマフラーまいてるの?
 思ったけど、それよりわたしの目は、その手にあるものに釘付けになった。

「エトランゼ!? うそっ、エトランゼのケーキ!?」
「うんっ。そうだよー、ちぃちゃん前から食べたがってたでしょ? お姉ちゃんガンバって買ってきたんだから♪」
 あったかい居間に移動して、箱からとりだした。

 うわぁ、
 うわあ、
 うわぁああ……。
 テレビでみたまんまだぁ……。

「で、でもどうして? わたしべつに食べたいなんて」
「あはは、見てれば分かるよ。お姉ちゃんだもの」
「う……」
 嬉しいけど、ちょっと悔しいかも。心読まれてたなんて。子供あつかいされたみたいで。
 で、でもまぁ家族だから仕方ないか。赤の他人に見抜かれてたようなら、ほんとに子供みたいでイヤだけど。


 お姉ちゃんはいつもの幸せそーなニコニコ顔でマフラーを取り、服を着替えていく。
「このマフラーどうしたの?」
「むかしのセンパイが貸してくれたの。……ん? もらえたのかな」
「ていうか今日、サトシとかいう彼氏とデートじゃなかったの?」
「かれ……っ。ち、ちがうよー。サトシ先輩は、お父さんへのプレゼントのネクタイ選ぶのに、どうしてもっていうから一緒に行っただけ。……なんか未成年なのにお酒のもうとか言い出すし。彼氏どころかちょっと苦手かも」
「ふーん」

 ……あれ?
「なにこれ?」
 脱いだ服のポケットから、赤い薔薇が一輪、顔を覗かせていた。
 ……ん? 赤い薔薇。どこかで……。

 と、お姉ちゃんは、
「……えへへへへへへへへへへへへへ♪」
 急激に顔をでれーっとさせる。
 ああ。
 そーめーな妹としては、ロマンチストでトロくさいお姉ちゃんのこと。それだけで分かりました。
 恋。したな。

「ケーキ屋さんでね~。すごく素敵な人にもらったの~♪」
 顔も語尾もとろかして、いきなりノロけはじめた。
 よく考えたらドン臭いお姉ちゃんが、エトランゼの厳しい倍率をくぐってケーキゲットなんてできるわけがない。店にいったら譲ってくれた人がいたらしい。その人からもらった薔薇とのことだった。
 小学生の立場からいわせてもらうと。初対面で薔薇をわたす男ってそうとう寒いよ?
 でも幸せそうなので言えない。

「はぁ……。もう一回会いたいなー。ムリかなー」
 ウットリ薔薇を抱きながら、切なそうにため息をつくお姉ちゃん。
 ま、ムリでしょうね。なにせ手がかりはこの薔薇と、エトランゼにいたってことくらい。
 エトランゼのケーキを譲るくらい甘いものに興味のない男じゃ、これから店に通いつめても、再会できる可能性なんてほとんどゼロよ。



 ……と。
「んえ? ちぃちゃん、コンピューター使ってたの?」
 あ、
 電源つけたままのパソコンに気付かれた。
 フツーに覗き込むお姉ちゃん。

「…………」
 …………。
「…………」

 ――――ヤバ!!!


「……ちぃちゃん? これ、なぁに?」
「あぅ……」
 怖い顔になるお姉ちゃん。
 しまった……。メールの隠しファイル、出したままだ。
 これまでネットで男をからかってきたやりとり、全部残ってる。

「出会い系。っていうの? こういうのは危ないから絶対にダメっていったはずよね」
「ち、ちがうよぅ。出会い系じゃないの。ただのメル友で……」
「どうちがうのかコンピューター苦手なお姉ちゃんには分からないけど、危ないことしてたのは事実でしょう」
「う……、う……」
「えっと……? ……しかもちぃちゃん、お相手の方を呼びつけておいて、無視したみたいね」
「別に呼びつけたわけじゃ。ただ会いましょうかって話になっただけで」
「顔も知らない相手に会うなんて危ないし。おかしな人じゃなかったとしても、お相手の方に失礼よね」
「……ごめんなさい」

 こ、こわい。
 お姉ちゃんはめったに怒らないけど、わたしが危険なことしたときはものすごーく怒る。
 そしていったん怒ると、むちゃくちゃ怖い。


「……今度またお会いする約束をとって、ちゃんと謝らないと」
「え、で、でも、会いに行くの危ないんじゃ」
「お姉ちゃんも一緒に行きます。このお相手の方の顔を見て、妹の失礼をちゃんとあやまります」
「うぅぅ……」

「ちぃちゃんはお父さんにしっかり叱ってもらわないとね」
「や、やだ。パパには言わないでぇ」
「ダメ! こういうことはきっちりしてもらいます。お尻たたき30回よ。覚悟しなさい」
「うわーん」

 もーっ。サイテー。
 えっと、いま8時55分。パパはまだまだ帰らないだろうけど……。
 はぅぅ……。




 クリスマスなんて、ひとッッッッつもイイことない!!!!!




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