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クリスマスSS 2




 クリスマスなんて大嫌い!




 ッくよー。ふざけやがってー。

 だいたいさぁ、イブっつっても、どいつもこいつもカレシと2人ですごすわけじゃねーじゃん? ほら、テキトーにダチ同士あつまって、わいわいさわぐだけってのもアリじゃん?
 なのにアタシ、今年は時間つくっといたんだよ?

 なのにンーだよサトシのやつ。
 なにが「用事できた」だよ。
 オメーこのまえ女用の指輪買ってたって聞いてっし。
 ンーでアタシ、今日まで渡されてねーじゃん。
 なのに今日、他で用事ある?

 完ッッッ全に浮気されてンじゃん。

「……はぁ」
 ッザケやがってよー。
 そりゃマジじゃねーのは知ってたし、アタシもマジってほどじゃなかったけど。
 ……3日前にヤってんだから、期待はするだろ。こっちだって似合いそうなマフラー買ってきてやったのに。
 なのに……。


「今日はお客さん来ないし、そろそろ閉めようか」
「……ぁーい」
 いつもは待ちわびてる、バイト終了のテンチョーの声。今日は憂鬱だった。
 はぁ……。まだ5時なのに。これでバイト先にもいられないか。

 CLOSEDの看板をだして、シャッターをしめれば、バイトのアタシの仕事は終了。
 つかこっからは、店に入っちゃいけなくなる。中古とはいえ服屋だから店頭にはアタシみたいな若い子がいるんだけど、うちのテンチョー、若い子信用してないんだよね。前にバイトにパクられたことがあるからって、検品は必ず一人でやる。
 しかたない。さっさと着替えて出てかないと。
 と、

「今日はクリスマスなのに、急にシフト入ってもらって悪いね」
 検品用のチェッカー片手にテンチョーが近づいてきた。
「きみは細かいところにもよく気がつくから、毎回助かってるよ。ありがとう」
 にこにこしながら言ってくる。
 ちなみに、若い子はきらいでも、アタシはテンチョーのお気に入りなのだ。胸にシリコンいれてからめちゃくちゃ優しくなった。

「これ、少ないけど特別手当ね。メリークリスマス」
 なんか封筒を渡された。
 ぁン? ボーナス?
 そんなに分厚くはないけど、ぺらっぺらってほどでもない。
「ンー、ありゃっす。いただきまっす」
 いちおー愛想よくしとこう。ぺこっと頭をさげて、上目使いで言った。おっぱいの垂れる感じが嬉しいらしくて、テンチョーはシシシと笑う。


            ☆             ☆

 ま、でも結局追い出されるのは変わりない。
 さッてと。このあとどーしよっかな。
 アパートはダメ。ニッコたちがパーティやってる。こんな時間に戻ったらサトシにフラれたのがバレる。
 他のダチや昔のツレには……イブの夜に予定がないことバレたくないしなー。
 といってサトシは他の女ンとこ。
 バイトにも戻れない。

 しかももっと最悪なのは、今日は今年一番の寒波だとかで、外、雪ふってることだ。
 マジさみー。
「…………」
 どーしよ。行く場所一個もないのに。

 店もどろっかなぁ……。テンチョーに行くとこないって話して。でもテンチョー、アタシとヤリたがってっから、イブに一緒にいたら絶対そうなるもんなぁ。
 べつに1回くらい抱かれてもいンだけど、おっさんって1回させると絶対にあと引く。むかし援助してもらったオジサマ方もみんなそう。だから、これからバイトやりにくくなったら困る。
 んー。
 ま、ファミレスかな。

 あーあ。
 過去サイテーのクリスマスかも。


 ――ツルッ。

 ……え?
 思ったときには、地面の氷に足をとられてた。
 ッざけンなよなんでココだけ凍ってんだよ――。

 ――どんっ。

 なんとかこらえようとするけど、後ろを歩いてた男にぶつかるだけ。
 気付いたときには凍った地面をヒールがひっかき、アタシは尻餅をついていた。

「ッてェ~~」
 うぇぇ……。
 まず痛い。
 次に冷たい。地面は雪でべちゃべちゃで、すぐに中まで水がしみてくる。

 それから思い出した。悔しいことに、今日はサトシに会うために、
 最っっっ高におしゃれしてきたことに。

「っぇっ!? うそッ!」
 すぐ腰をあげたけどもう遅い。
 カーデにレースの白ワンピ、白のパンプスなんて汚れに弱すぎるアタシの取り合わせは、一回倒れた数秒のあいだに全滅だった。

「ぁンだよコレ最悪~~っ! ッうそだろも~~~ッ」
 うぁ~~。このカーデお気に入りだったのに。パンプスなんて今日おろしたばっかだぞ。
「っんだよこれぇ。まじかよ~~」

 ああぁぁ……。
 情けないやら悲しいやらで、泣きたくなってきた。
 しかも1人で滑って転んだってのがアホすぎる。誰かに突き飛ばされたとかなら文句もつけれるけど。
 ……あ、そういや、誰かにぶつかったんだっけ?
 顔をあげると、さえない感じの、オタっぽい男が、心配そうに見下ろした。

「ッあン……。そっち、いい?」
 顔は引きつりまくってたと思うけど、なんとか腰をあげる。
「いいよ」
 言いながら、心配そうにこっちを見てくる男。
 ちきしょう……。理不尽にキレてやりてーけど、フツーにいい人っぽくてしにくい。
 チッ……。もういいや。

「ッさーせんしたっ」
 ぶつかったのがこっちからで、倒れたのもこっちだけ。なら文句は言われないだろう。適当にあやまる。
 そこで気付いた。バッグの中身まで散乱してる。
 ……ああもう! いっこいっこ拾っていくことに。
 財布に、化粧ポーチに、ノート。……サトシへのプレゼント用のマフラー
 それと、ボーナスの封筒。
 全部集めて、その場を立ち去った。



☆ ☆

 行く場所がないどころか、お尻が冷たすぎて風邪引きそう。
 もうどうでもよくなって、近くのバーに入った。アタシ、未成年だけど。

 人があんまりいない席にしたかったけど、残念ながら空いてたのは入り口近くの席だけ。ノンアルコールのフリードリンクとチョコレートパフェを注文して、バッグで汚れたお尻を隠し、乾くのを待つことにした。
 ニッコのパーティ終わるのは……11時くらいかな。
 まだまだ時間つぶさなきゃ。

 店はあったかいけど、お尻はまだ冷たい。
「…………」
 …………。
「…………」
 はぁっ。
 マジ泣きそ。


 フリードリンクで1000円。パフェがひとつ1500円。
 やっぱバーって高いな。ちょっと遠くてもファミレスにすりゃよかった。
 でももう遅い。今日のバイト代はぜんぶ使っちゃうつもりで、ココで夕飯にした。バーって言ってもお菓子類はけっこう豊富に出てくる。
 そういやテンチョーのボーナス、いくらくらいあンだろ? ま、あのテンチョーのことだからショっボいとは思うけどさ。

「…………」
 アタシのマイナスは?
 服の上下でかるく10万。
 カレシにフラれ、
 カップルひしめくお洒落なバーで、ひとりお尻の寒さにこらえながら、寂しく不味い夕飯を食べてる。

 サイアク。
 今年はサイアクのクリスマス。
 つか今日は人生サイアクの日だわ。


「……あ~~……」
 テーブルに突っ伏した。お尻がぐちゅってなって気持ち悪い。
 なにがいけなかったんだろ?

「…………」
 決まってんじゃん。サトシだ。
 アイツが今日の約束ドタキャンしなきゃ、アタシはフツーのクリスマスをおくれたんだ。
 聖夜にスケベオヤジにおっぱい見られながら働くこともなかったし。
 お気に入りの服が汚れることもなかった。
 つかドタキャンどころか、アイツと約束さえしなけりゃ、ルームメイトのニッコたちのパーティに参加できたじゃん。

 全っっっっっっ部アイツのせいだ。
 ちょぉっと顔がいいからって、ウテウテのヤリヤリ。調子のりすぎだわ、店とかほとんどワリカンなくせに。
 ……そりゃ簡単にヤらせちゃったアタシもアタシだけどさぁ。
 アイツ、ウマいんだよなぁ。『だーいじょうぶだって』とか言いながら強引に得意の店にひきずりこんで酒のませて、いい気分になったらそのままホテル直行。こっちもあっちが人気者って知ってるから、悪い気しなくてどうしても……。
 ……はぁ。

 結局悪いのはアタシか。

 も~~~~っ。
 クリスマスってサイアク!!!



            ☆             ☆

「だーいじょうぶだって」

「…………」
 ………………ぁ?

「あ、あの。困ります。まだ未成年なのに」
「大丈夫大丈夫。ココ、ノンアルコールもいっぱいあるから。ちょっと大人の気分味わってみるだけ。ね?」
「でも、あの、私もう帰らないと……」

「…………」
 たとえば、雪のなかで滑ってお尻ぐちゅぐちゅで、そんなときに時間つぶすべく入った店で、知り合いと会う可能性って高いかな?
 少なくとも、カレシと、その浮気相手と会う可能性は、むっちゃくちゃ低いよね。

 アイツ、あれ以外のパターン持ってないの?
 アタシがヤらせたときと同じ感じで、強引に女の子の手を引いてるサトシ。
「その、妹が待ってるんです。それでケーキも買いに行かなきゃいけないし。あの。その」
「じゃあ1杯だけ。いいじゃん、ね? 夕メシおごったんだしさぁ」
「そ、それは……」
 適度に相手の弱いトコをゆさぶりながら、中へ中へと引き込んでいく。

「…………」
 アタシはもうあきれちゃって。正直、知らん顔したかった。
 てかこんな格好、サトシに見られると恥ずかしいし。メニュー見てるふりして下むいてればきっと気付かれなかっただろう。

 けど、サトシに手を引かれてる子の顔が見え、


「アユミ!?」
 つい声が出ていた。

「? ……あっ、先輩」
「あ? …………ッッッうわあああああッッ!!!!??」
 向こうも驚いた顔のアユミ。と、悲鳴を上げるサトシ。おいコラ、うわーはねぇだろうわーは。

 並んでぽかんとする二人とアタシ。
 しばらく時間が止まり、それから、
「奇遇ですねこんなところで。…わ、どうしたんですかその格好?」
 真っ先に動いたのはアユミだった。アタシに会えたからか嬉しそうにして、それから服に気付いたんだろう。ハンカチをとりだし近づいてくる。

 まんまにしといたお尻の泥をおとしてくれるアユミ。アタシは世話になりながら、
「ッありがと。アユミはどうしたの? ッこんなとこで」
「はい、えっと、お父さんへのクリスマスプレゼント。サトシ先輩が選んでくれたんです。それで、……あの、ご飯を……」
 最後は言いにくそうに濁す。無理やりつれてこられたか。
 サトシを見返した。

「…………」
「…………」
「…………」
 しばらくして、サトシは引きつりながらヘラッといつもの軽薄な笑みを浮かべる。

 ふーん。

 なるほど。

 よぉーく分かりました。


 OKサトシ。3日前にヤったアタシを放っといて、他の女に手ぇ出してたことはゆるしてあげる。
 だってアユミだもん。
 アタシだって、アタシとアユミが並んでたら、アユミを選ぶよ。

 アユミはアタシの2コ下の後輩。
 すんごくイイ子だ。で、オナチューで同じ部活の先輩だったから、アタシなんかにもすんごい懐いてる。

 正直相手の女にもキレてたけど……アユミとなると話は別。
 聞かなくても分かる、悪いのはサトシだけだって。
 どうせ今日一緒になれる機会ができたから、アタシ切って、この子をたらしこもうとしてたんだろう。
 残念でした。
 アユミはこう……可愛いっていうか、トロいっていうか。とりあえずアンタみたいなヤリチンとは別世界の子なんです。

「あの、お2人はお知り合いで?」
 サトシの感じでピンときたらしい、聞いてくるアユミ。
 ちなみに、サトシもまったく同じことを聞きたそうにアタシらを見てる。
「…………」
 フフフ。
 なにこれ。おもしろい。

「ッちょっとね。それよりアユミ。アンタ、ちぃちゃんは今日どしたぁん?」
「あっ、そうなんです。その、そろそろ……」
 申し訳なさそうにサトシを見る。
 この子、家庭の都合で小学生くらいの妹の面倒見てるからな。早く帰りたいだろうに、サトシが帰らせてくれないんだろう。

「ッいーよいーよ。行きな。コイツはアタシが面倒みとくから」
 ニッとさわやかに笑って言った。アユミの前では『イイ先輩』を心がけてるのだ。
 アユミは目でサトシにも了解をとる。サトシはアタシの手前、行かせるしかない。

「じゃあ、ありがとうございます。……あっ」
 もっかいペコリと頭を下げて出て行こうとするアユミ。
 と、なぜか上着を脱ぎ。
「これ、どうぞ」

 あ……。
 とくに濡れてるお尻に、腰巻きみたいにしてくれた。
「…………」
 ……明日からレズになろかな。

 そのまま出て行こうとする。
 えっと、えっと……。
「あーっ、アユミ、ッちょい待ち」
「はい?」
 さすがにその格好で帰すのは先輩的にNG。上着をつっかえすわけにもいかないんで、バッグをあさって代わりのものを取り出した。
 サトシにあげる予定だったマフラー。男モノだけど、ま、いーよね。

「メリークリスマス」
 首にかけてあげた。
 アユミはちょっと申し訳なさそうにして、でもやがて笑顔で、
「ありがとうございます」
 出て行った。



 さて、と。
 邪魔者も帰したことだし。

 ちょいちょい指招きする。もちろん、サトシはおとなしく近づいてくる。


「…………」
「…………」
「…………」
「…………」


 せー


 のっ。




「ッッッッッッッッッッッッざけンなよテメーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」




            ☆             ☆


 あー、すっきりした。

 人前で思う存分怒鳴ってやったし、高くつきそうな夕飯代は払わせたし、アイツのこと、『アタシがフッた』構図にできたし。
 おゲレツな方法だったけど、気分はハレバレ。

 アパートに戻った。さすがにもう12時過ぎ。ルームメイトたちのパーティも終わってて……。
 ニッコは誰かにお持ち帰りか。部屋にいなかった。

「……はぁ」
 誰もいない部屋。
 もうだいぶ乾いた服を脱いでいく。アユミのコートだけは汚さないように。
 で……。
「…………」

 結局、ちょっとムナしかった。
 お尻汚れてるし、風呂入ったほうがいんだけど、なんとなくぼーっとしちゃう。

 気分は晴れたけど。
 男に逃げられた構図はかわんねーわけで。
「…………」
 サイアクのクリスマスなのも変わらない。

 服ももうクリーニングじゃ利かないだろうしなー。
 あーあ、次の男つくるまでに新しいの買わないと。また10万くらい飛ぶのか。ッ。


「…………」
 あ、テンチョーにもらったボーナス。

「…………」
 ないない。
 あのテンチョーが10万なんて。ありえねぇって。
 現金が入ってるかすら怪しいね。
 せいぜい……。ビール券5000円分くらい?


 ったく。




 クリスマスなんて大ッ嫌い!!!!!





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