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クリスマスSS 1

 クリスマスなんて大嫌いだ!




 夕方6時をすぎ、町はネオンに彩られた、1年で1番きらびやかな顔を見せていた。
 きれいなもんだ。
 ああきれいだ。
 まったく、俺には場違いな光景だった。


 そもそも俺みたいなのが、今日を楽しみにしてた。それがまちがいだったんだ。
 いつも通り部屋にこもって、ラーメンでも食いながら明石家サンタの時間待ってりゃよかったんだよ。
 バカみたいな期待をいだいて、町にでたのがまちがいだった。


 手の中の携帯には一言。
『ごめんなさい。今日、いけません』
 のメール。

 ちくしょう!

 やっぱりイタズラだったんだ。
 でも俺は本気でだまされてたわけじゃないぞ。こんな可能性も予感はしてた。
 チハヤさん。そもそもネットで知り合った、顔もみたことない相手だからな。「クリスマス、会えるのを楽しみにしてます」なんて言葉、本気にしてたわけじゃない。
 そもそもなんだ。待ち合わせのサインが「赤い薔薇」って。どんな90年代だよ。


 ていうかブスだろ。ブスに決まってる。ネットで男あさりするような女なんて、腹回りがだぶんだぶんのベーゴマみたいな体型したデブスに決まってるんだ。
 でなきゃ男だ。あごのまわりとかうっすら青くヒゲはやしたおっさんだろう。ネカマってやつにからかわれたんだ。
 いやいやひょっとしたら、もう彼氏持ちのビッチかもな。それでこれから性の6時間をむかえつつ、俺のことを盛大にあざわらってやがるんだろう。
 それとも? どっかから見てるか? 約束どおり待ち合わせ場所に赤い薔薇もってあらわれたバカな俺をどっかから見てて、イケメン彼氏とゲラゲラ笑ってんのか。
 はっ。分かってるさチハヤさん。あんたがやってること、こっちはぜーんぶ分かってる。だから100%だまされたわけじゃねーんだよ。

「…………」
 …………。
「…………」

 ちくしょうめ!!!



 ああもう……。泣きそうだ。
 クリスマスの町ってほんとにカップル多いよな。ここ何年も家にこもってたから知らなかった。駅前だからなおさらだ。
 人目を避けるべく、路地裏にうつる。

 あいつらの目からは、一輪とはいえ赤い薔薇なんて持って1人歩いてる俺はどううつるんだろ?
 恥ずかしい。ポケットにつっこんだ。
 ちきしょぉ……。俺だってなぁ、ほんとはそっち側のはずだったんだ。チハヤさん。半年かけて口説き落として、今日会う約束とりつけた。話の感じから食べたそうにしてた人気のケーキ屋『エトランゼ』のケーキ引換券も、オークションで4倍の値段で手に入れて……。
 ……くそ。

 なんで俺はこう不幸なんだよ。
 クリスマスなんて大嫌いだ!


☆ ☆

 ――ゴスッッ!

「…………」

 ……?

 いてぇ……?

 あやうく雪の積もった路地の上で、倒れそうになった。
 なんだいったい。急になにかが降ってきて、額に直撃した。
 デカい。そして重いなにかだ。ぐぁぁ……デコいてぇ。

 見るとそれは、リラックマのぬいぐるみだった。
 デカい。超デカい。両手で抱えるようなサイズだ。それが固い箱に梱包されてるから、そりゃあたりゃ痛い。

 くぁ~。ヒリヒリする額をおさえながら、周囲を見渡した。
 だれだこんな危険物なげつけたのは。へたすりゃ殺人だぞ。
 だが、

「……?」
 人目をさけて路地裏にきたから当然だけど、あたりには誰もいない。
 降ってきたように思ったけど、この時間帯、まわりはシャッターを閉めた建物しかない。
 なんだ? どっからきたこのぬいぐるみ?

「…………」
 んっと。

 わりと高そうな品なのに、持ち主がとりにくる気配はない。このままここに置いといたら明日の朝には雪ダルマだな。
「…………」
 パクるか?
 いやいや。こんなもん部屋においても、かさばるだけだ。
「…………」
 といってお高そうな品だし。雪ダルマにするのも忍びない。
 交番か。

 もって歩き出した。さいわい、重いとはいってもぬいぐるみの話だ。運ぶのに苦労はしない。
 もう一度、交番のある駅前に戻る。相変わらずカップルが多いけど、こんな目立つものを持ってりゃ、逆に子供へのプレゼントを買った男――みたいに見られて、すでに嫁さんアリだと思われるかも。
 とにかく、交番まで……。



「きみ、すまない」
 あ?

 へんなおっさんに呼び止められた。
 なんだ?
 あ、コレの持ち主か?
 ならデコにぶつけられたんだ。文句言ってやろう。思ってると、おっさんはなぜか財布をとりだし。

「それ……。売ってくれないか?」
「は?」
「そのDXリラックマ。娘がどうしても欲しがっているんだ」
「え……あ、いや。これは……」
 俺のじゃない……。

「たのむ! いまここに――2万……8千、754円ある! 全部出すから売ってほしい! 頼む!」
 いやいや。
 これ俺のじゃねーし。
 言いたいんだが、おっさんは目が血走ってて顔が怖い。なんか詰まってしまう俺。
 と、おっさんはさらにかんちがいして。
「そうか。たりないよね元値で2万なんだから。……じゃあ」
 とりだした現金をポケットにつっこみ、かわりに茶色い封筒をとりだした。

「これは、ぼくの自由につかえる全財産だ」
「え……」
「頼む! 娘が待っている、もう時間がないんだ!」
 むりやり封筒を握らせてくるおっさん。
 ……うわ。けっこう分厚いぞ。
 思わず握ってしまうと、

「ありがとう! これで娘に申し開きが立つよ――。おっと、もういかないと!」
 こっちがまだ何も言わないうちにぬいぐるみを奪い、そのまま走り去っていった。
「あの……っ」
 あっけに取られつつ呼ぶんだが、おっさんはさっさと駅の構内へ。見えなくなる。
 残される俺と封筒。
 おいおい……。拾いもの売っちまったよ。

「…………」
 えっと。

 ま、いいや。もらっちゃえもらっちゃえ。俺はなにも言ってない。全部かんちがいしたあのおっさんの責任だ。
 封筒はけっこう分厚い。ちょっとしたボーナスだと思ってもらっとこう。
 きびすをかえし、家路を目指すことに。
 ……交番の前をとおるのは避けたい。噴水の裏を通って……。


            ☆             ☆

 ――ドンッ。

 うわっ。
 なんだなんだ続けざまに。
 こっちは普通に歩いてたのに、向こうからきた女が急カーブしてぶつかってきた。
 いや俺はいいんだけど……。

「ッてェ~~」
 うわぁ……。
 尻餅をついた女のほうは、悲惨だった。
 ライトアップされた噴水まわりは、きれいに見せるためか塩がまかれて、雪がぜんぶとけべしゃべしゃになってる。その泥水に転がった格好だ。バッグの中身も散乱してる。
「っぇっ!? うそッ! ぁンだよコレ最悪~~っ!」
 ……ああ、
 やばい。しかも、かかわりあいたくない人種だった。
 女子高生? 大生? 知らないけど。いかにもチャラそうなギャルだった。顔は厚塗り化粧でテッカテカ。目元はギンギラギン。ポンパっつーのか? 不自然にウェーブさせた髪を不自然にもちあげて。
 なんかもう雑誌でみたお洒落のために、お洒落って言葉の意味を忘れてるような人種だ。いまもぶつかっただけで香水のニオイがこっちにうつった。

「ッうそだろも~~~ッ」
 これからカレシにでもあうのか、なかなかよさそうな服を着てるのが、泥水をかぶって泣きそうになってた。
「っんだよこれぇ。まじかよ~~」
 一言一言「ッ」て舌打ちしてから話すあたり、あんまり温厚なタイプとも思えない。苦手だ。
 どうしようか困っていると。

「ッあン……。そっち、いい?」
 女は心底憎々しげに俺を睨みながら、でも言葉のうえでは責めてこなかった。ぶつかったのが自分からってことは理解できてるらしい。
 俺が「いいよ」と返すと、また舌打ちしながらも「ッさーせんしたっ」って返して、散乱したバッグを片付け、さっさと去っていった。
 ふぅ……。最低限の常識はあったか。たすかった。
 俺も行こうとして。

「……お」
 ポケットの中身を落としてるのに気付いた。
 薔薇と、おっさんの封筒と、それから、
『エトランゼ』のケーキ引換券。


            ☆             ☆

 せっかくなので、ケーキだけは食べることに。エトランゼへ向かった。
 原価4800円。オークション効果で2万円。無駄にするだけの度量はさすがにない。

 でも店の外でしばらく待つことになった。
 なにせエトランゼは、どこそこのホテルにお勤めであらせられた、おされパティシエ様の開いた、最近雑誌に連日とりあげられるケーキ屋だ。
 クリスマスイブの人気ケーキ屋。中はカップルだらけで、俺が入る度胸はない。
 とはいえ2万円のチケットを紙くずにする度量もなく、しばらく時間をつぶして空くのを待ち、取りにいけた。

「お待たせいたしました。ハッピーメリークリスマス」
 ダンディな店主から、値段のわりには小さい箱をうけとる。
 ハッピーじゃねぇよ。こんなちっさい生クリームのかたまりを、樋口一葉さんと交換できるあんたにくらべりゃな。
 思いながら引換券を取り出す。
 ……っん? なんか引っかかったような。

 と……。


「すいませんっ」
 あん?
「あのっ、無理ですかいまからじゃ。……その、ショートケーキ」
 女の子がひとり、必死な様子で店員さんに食いついていた。
 なんだなんだ?
「あの。どうしても、ケーキが必要で。それで、あの」
「申し訳ございません。本日はもう品切れとなっておりまして。こちらのプチシューなどはこの時期ご好評いただいておりますが」
「いえ、ケーキじゃないと……」

「…………」
 おお。
 かわいい。
 かなり可愛くて、それに清純そうな女の子だった。やべ。かなり好みのタイプだ。
「…………」
 ……ああ、でも、カレシ持ちだな。かけてるマフラーが男モノだ。

 様子を見てると、どうも彼女、ケーキを買いたいらしい。
 ははは、そりゃ無理だ。この店、何週間も前から予約して、前売り券だけで完売してるレベルだからな。先週手に入れようとした俺ですら、4倍の値でようやくゲットしたくらいだし。当日に来るなんて遅すぎる。

 こういう場合の接客はマニュアル化されてるんだろう。若い店員は笑顔で「もうしわけありません」を告げ、ついで他のメニューを宣伝してた。
 ウマいな。
 でもありゃだめだろう。クリスマスってのは、ケーキだからこそ意味がある。現に女の子は困った顔で下をむいてしまった。

「…………」
 ……ふむ。
 ポケットの中をさぐる。
 おっさんにもらった。分厚い封筒が手に当たった。
 俺にはコイツがあることだし……。

「あの」
 引換券をもぎってた店主に声をかけた。
 店主はすぐに了解してくれ、ダンディな仕草で俺からケーキの箱を受け取ると、女の子のもとへ。
 びっくりした顔の女の子。たぶん「あちらのお客様からです」みたいなことを言われたんだろう。こっちを向く。

 ……ぐあ。
 やばい、やった後で気付いた。超照れくさい。
 けど女の子は、目に涙まで浮かべてこっちに駆け寄ってくる。
 まっすぐに目を見つめてくる彼女。

「…………」
 ………………。
 ……………………あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ。

 俺、顔真っ赤。頭まっしろ。
 女の子、苦手、三次元、照れる、ムリ。
 あうあうあうあうあう。

 なに言われてるかまったく分からない。とりあえず、「ありがとうございます」を7回言われたのと、4800円うけとったとき、彼女のあったかい指が俺の手のひらに触れたのはたしかだ。

 しかもそこでダンディ店主が。
「おや、素敵な薔薇ですね。こちらお客様の?」
 床に落ちてる薔薇をひろった。
 あ……。さっき引換券をだしたとき、ポケットから落ちたらしい。俺の薔薇。
 頭まっしろな俺は小さくうなずく。と……。

「メリークリスマス」
 なぜか俺でなく、女の子の受け取った箱に突き刺した。
「あ……」
 俺を見る女の子。

 なぜだ!?
 ちょっ、まて。俺はそんなキザな真似をする人種じゃない。このアホダンディのしたことだ。
 なのに彼女は、完全に俺がやったものみたいな目でこっちを見てきた。嬉しそうに。ちょっと目元を潤ませて。
 ぐあぁっ、可愛いっ。

 たぶんディズニーランドとか好きだろうキザな店長は、ぽむぽむと俺の肩を2回叩くと、そのままカウンターの奥へ引っ込んでいった。
 残される俺と彼女。
「ありがとう……ございました」
 口下手なのか。彼女はだいたいそれしか言わず。
「…………いや」
 もっと口下手な俺は、もっとなにも言えなかった。


            ☆             ☆

 はぁ……。疲れた。
 10時過ぎ。家に戻る。
 やっぱ寒い日は家にいるのが一番だ。
 残った時間はこたつでぬくぬく。ラーメンでも食いながら2ch三昧といこう。

 ケーキ屋では一瞬舞い上がってしまったが、よくよく考えれば、現在性の6時間真っ最中だろうカレシ持ちの女の子に優しくして。バカか俺は。
 万一カレシいなかったとしても、連絡先なんて聞いてないから、これっきりだしな。
 しかも2万で買った引換券を、原価4800円で売ってしまった。ったく。金銭的にも痛い。
 けどまあいいや。ポケットの中をさぐる。
 さっき、おっさんから受け取った封筒をとりだした。
 もらい方はイレギュラーだったけど。ま、いいだろ。15000円損してるわけだからな。あのおっさんはサンタだったと思うことにしよう。

 なかなか分厚い封筒だ。中身は札10枚くらいは固い。
 全財産とか言ってたから、千円札10枚ってこともないだろう。思うと頬が緩んだ。
 あけてみる。


「…………」
 …………。
「…………」



 …………………………………………は?



 ビール……券?


 中身はたしかに10枚だった。
 ビール500円券……10枚。

「…………」
 …………。
「…………」




 はあああああああああああああああああああ!!???



 あのクソオヤジ! なにが全財産だよ!
 ビール券しかも5000円分じゃねーか!!! あのぬいぐるみ、いくらすると思ってんだ!? まあ俺のじゃないけど。

 ああもう……。結局1万のマイナスかよ。
 チハヤさんには捨てられるし、おっさんにはだまされるし、あの女の子とはほんの数分のロマンスで終わったし。

 ちくしょう……。



 クリスマスなんて大ッ嫌いだ!!!!!






                         続く ≫

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