映画感想  のび太の海底鬼岩城


≪ネタバレ注意!!≫





 前作「大魔境」に続き、現代の不思議空間を探索する。
 ジャングル奥地よりずっと身近だがずっと謎の深い「海底」。
 いいチョイスだと思う。
 まだ僕が生まれるより前の作品なのだが、
 シリーズの中でも屈指の出来。
 個人的には3本の指に入るほど好きなのだが、
 リメイクの予定はなさそうである。
 内容がこれより過去の作品に似通っているとかで
 著作権侵害の疑いがあるそうだ。
 残念な話である。

 あとどうでもいいが最後出てくる「鬼岩城」のデザインが
 ダイの大冒険に出てくる鬼岩城と似てる。


 本作から「OP前」、いわゆるアバンがつくようになった。
 といってもまだ数分のもので、「ドラえも~ん」からのOP突入ではない。
 このOP画面が特徴的で、終始海底へ突入する深海船が映されるだけである。
 なんだかキテレツで見たような船なのはともかく、
 周りがなんかルパンっぽい、闇と薄気味悪い岩陰しかない世界を
 ひたすら下っていく。不気味さを漂わせる絵が続く。
 本作が
「テレビドラえもんの映画版」でなく
「ドラえもんを題材にした1つの映画」であるという演出だろう。
 どちらが好きかは好みによるが、個人的にはこれもありだと思う。


 こうして不気味に始まったあとは、
「海の底には地上より高い山がある」ということで深海探検が始まる。
 この冒険シーンがシリーズでも屈指の出来。
 ドラえもんのチートっぷりが炸裂して、都合のいい条件で
 快適に海底を車でドライブする。

 海底は未知のエリアであるがゆえに「不思議空間」で
 冒険心がくすぐられるし、
 道具の力で普通と変わらない姿でいられるのに、
 トイレをするときなど折々に「水の中」であることが触れられて
 設定を無駄にしていない。

 また緊張感が尽きないのも小気味よいテンポを作り出している。
 冒険の舞台、恐怖の相手は
「沈没船」「大王イカ」「海底文明」「鬼岩城」と
 どんどん移っていき、その時々にピンチがある。
 ドラえもんのチート力は一切封印されていないのだが、
 ここまでピンチが連続するとそのたびハラハラさせられる。


 ラスト鬼岩城に忍び込むと、軍事国家1つが相手となるため
 さすがのドラえもんにも厳しい局面が続く。
 この時出てくる機械兵のデザインがまた怖く、
 終盤のハラハラ感は最高潮である。

 そしていよいよ出現するシリーズ最強の敵「ポセイドン」。
 ハンター、地上げ屋、王位簒奪と
 せまい範囲の悪党を倒してきたこれまでとちがい、
 なんとポセイドンは地球を滅ぼしかねない怪物である。
 …こんなやつにこそ大人が出ていくべきだろ。
 なにやってんだタイムパトロールは。

 しかも悪意があるわけでなく、
 防衛装置による暴走という点が深い。
 当時は冷戦下。
 アメリカとロシアによる水爆の保有数が問題になっていたころ。
 藤子先生は何度か短編漫画で、この水爆競争からなる
 世界の滅亡を危惧しておられるため、
 本作のアイデアも無関係ではないだろう。


 本作はシリーズでもとくにのび太の活躍が少ないのだが、
 面白いことにしずかちゃんがそれを助けている。
 本作一の活躍キャラは彼女となっており、
 ゲストキャラのバギーとエルの
 両方をメロメロにする魔性っぷりを見せたかと思えば、
(魔性というか2人がスケベなだけだが)
 最後は自ら囮になるという勇敢さまで見せてくれる。
 そんな彼女と常にセットになるという立ち位置のため、
 全然活躍しないのび太もさほど影が薄くないのである。

 また地味に大魔境に続いて、ジャイアンがいい味を出している。
 その時点ではあくまで敵だったエルに対し
 ピンチなのを見過ごせず飛出し、自分がピンチに陥る。
 おバカだけど情に厚いガキ大将。
 理想的なジャイアン像である。


 そしてなんといってもゲストキャラ、バギーの存在が印象深い。
 先にも述べたとおり本作はのび太の陰が薄いわけだが、
 その理由は間違いなくこのバギーにある。
 弱虫、臆病、へそ曲がりですぐ逃げる。
 劇場版では出しにくい、本来ののび太の性格そのままなのである。

 そんな彼が最後しずかちゃんのためにポセイドンに
 火の玉になって飛び込んでいくラストは
 のび太のようなキャラクターの理想的な使い方であり、
 作り手側の「のび太を殺すわけにはいかないし……」な声が
 聞こえてくるようだ。

 そして同時にバギーは、最後の敵ポセイドンの
 写し鏡の役割も背負っている。
 バギーは途中、ジャイアンたちを見殺しにしようとしている。
「機械は命令に従う」ひいては「命令されなきゃ何もしない」
 ということで、ピンチなジャイアンたちを目の前に
 助けようともしないシーンがある。
 これはポセイドンの
「人間の言うことに盲目的に従ったあげく世界を滅ぼす力を発動しかけた」
 設定とリンクさせていると考えていいだろう。

 そんな彼だが、しずかちゃんに対してだけは誠実になる。
(ぶっちゃけスケベ心だが、ここものび太とリンクする)。
 そしてしずかちゃんへの思いだけを胸に
 自分より遥かに巨大な力を持つ自分の写し鏡。
 ポセイドンへと単身向かっていくのである。


 バギーの犠牲を経て手に入れた勝利。
 ここに藤子先生の粋な計らいがある。
 犠牲を惜しむしずかちゃんに対し、のび太たちはただ喜ぶだけだ。
 考えてみればここまでバギーは、
 しずかちゃん以外にはひたすら嫌なやつなのである。
 のび太の目線から見れば、ジャイアンたちを殺しかけた
 ただただスケベな嫌なやつであって
 犠牲になったところで何を思うこともない。
 のび太に感情移入してみる子供の目線からすれば
 バギーの犠牲というモヤッとした気持ちは残るながら
 このころはただ劇中ののび太のように喜んでいればいい。

 ただ大人になって、少し俯瞰から見られるようになると、
 バギーの心情やポセイドンとのギャップが分かり
 何とも言えない後味が残る終わり方となっている。


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